ぷらっとほーむの日記 ぷらほブログ

山形市・若者の居場所と学びの場づくりのNPO団体です

 「車なので烏龍茶」のコミュニケーション論


久しぶりのネタ投下ですよ。

言葉、通じてない?―コミュニケーションの歴史としくみ

言葉、通じてない?―コミュニケーションの歴史としくみ

 デートの最中に、二人きりで大変親密な雰囲気になったところで、彼女から「寒いわ」とささやかれ、コートをかけてやったり、暖かい店に入って温かい飲み物を勧めたりして、さんざん気を遣った結果、振られてしまった若い男の話を聞いたことがある。相手の女性としては、優しく抱いて暖めてもらいたかったのである。別段特殊な要求とも思われないが、とうとう「寒いわ」では男に真の要求を理解してもらえず、望みの反応を引き出すことができなかった。
 そしてこの気の毒な女性は、この愚鈍な若い男にもう一度チャンスを与えることはしなかった。「寒いわ」に込められた女性の要求はあまりにも自然で切実であるが、なかなかむき出しに口にはしにくいものであるところを、この女性にしてみれば「寒いわ」と思わせぶりに口にするところまで大胆に踏み込んでやったのである。この若い男は自分がかなりの特別扱いを受けていたことを知るべきである。にもかかわらずこの若い男は必要な反応を示さなかった。これは、この若い男がよほど鈍感であるか、それとも女性の切なる願いを知りつつ、故意にはぐらかしたかのいずれかであるに違いない。そうに決まっている。もしこの若い男が前者である、つまり不幸にも女性の気持ちが分からなかったのなら、そういう鈍感な人に女性としてはもう二度とデートの恩恵を与える気になれない。
 しかも若い男が単なる大ばか者で必要な反応を示さなかったにしても、結果として後者、すなわち女性の願いを知りつつ故意にはぐらかすという、悪質な侮辱行為をなしたのと、同じ苦しみをこの女性に与えてしまったから、当然そのくらいの罰は受けるのである。もしこの若い男が悪賢い人間で、初めからこの女性の要求を知りつつはぐらかすつもりであったのなら、なおさら許せるものではなく、今後のおつき合いは断固お断りする。いずれにしてもこの若い男は振られる運命にある。
 この若い男の方にも言い分はあろうと思うが、事態のこの進展においては男の方がどういうつもりであったかなどということには、気の毒ながら、本当に気の毒ながら、全く(完全、絶対、100パーセント)何の意味もないので、分析しても無駄である。この場合、男の方の言い分など、なきに等しい。決して聞いてもらえない。言えば言うほど傷を広げ、女性の心は離れていくばかりである。
 しかし、「優しく抱いて暖めてもらいたい」という女性の真意を、「真実寒がっているだけ」と受け取った、この若い男性の誤解には、長い目で見れば、祝福されてしかるべきものがあり、相手の女性にも、そのことの意味にきっと気づくときがあるだろう。なぜなら、「優しく抱いて暖めてもらいたい」を「真実寒がっているだけ」と誤解する方が、その逆方向に誤解するより、遙かに遙かに優れたことで、信頼に足る、この若い男性の人柄の現れだからである。この若い女性の方は、必ずやこの先、逆方向の誤解(場合によっては故意にするそれ)に大量に出会い、悩まされ続けるであろう。この女性がそれに疲れ果てたとき、この若い男性の真価に気づくはずである。*1

だそうです。早く気づいてください>●●●●●さん。
ちなみにこの本、すごく面白いです。おすすめです。読みたい人はたきぐちまで。

*1:石井正人『言葉、通じてない? コミュニケーションの歴史としくみ』pp.86-87